カリカリ

実際、カリカリしていた。
原因は、実家のあるいわき市に残る親族のことだった。
僕の母と姉は、昨日の午後、郡山に向けて出発した。
原発事故の被害を避けるためだった。そして、そこでガソリンを知人からわけてもらって、今日、東京へ向かった。

近くに住んでいる親族(叔母と従兄弟二人)は、諸々の事情があって、残らざるを得なかった。

その叔母、が今日の夕方になって不安になり、やはり今日までは残っていた別の親族に連絡してみると「もう大丈夫だよ」と言ったそうなのである。しかし、その後、従兄弟が仕事から帰ってきて、「もう大丈夫だよ」といった親族の兄弟に電話してみると、すでに市外に向けて出発した後だということがわかったのだという。

それを僕に伝えた姉は、「昨日、何がなんでも一緒に連れてくれば良かった」と嘆いていた。

その話を聞いて、僕は憤ったが、これから先のことが大事だ。
今、残された親族は、移動したくてもガソリンがない。叔母は体が不自由で、歩くことすらままならない。

一方では、すでに14日、第一原発ではメルトダウンが始まって、爆発は時間の問題だという噂も流れている。
一刻も猶予はならないと思えた。
ネットで情報を集めると郡山方面からガソリンを積んだタンクローリーが、いわき市内についたから最寄のGSに電話してみろという情報があった。
それをその親族に伝えて電話を切ったのだが、無事に手に入っただろうか、それが心配だ。

地元のためにと、地元で踏ん張っている方や、動きたくても動けない方がいることも承知している。そういう方には申し訳ない。それでも、動けるならば、今はいったん避難して、生き延びて欲しいと思う。1人でも多くの方の命が救われて欲しい。

そう思うが、同じ血を分け合ったもの同士でも、出し抜くようなことをする人間がいる。それが本当に悔しい。そういう人間は、もう二度と、自分たちの町には戻らないつもりだろうか。僕は、母親と姉が住みなれた実家のある町に戻れる日が来ることを願う。
この町は、僕自身は一度も住んだことがない。でも母も、既になくなった父も、育った町である。今まで、それ以上の愛着がある町ではなかった。でも、今度帰省するときには、もっと、この町を知ってみたいと思う。ツイッターなどで知り合った人が経営するBarにも行って見たい。

そのように復興した町で、出し抜いて去っていった彼らはどんな顔で、僕らの前に登場するつもりだろうか。実に切ない。