野良猫が棲む家の暮らし

この家に越してきたのはおよそ10年前の夏の初め。
カミさんの親戚が所有する土地に建つ一軒家が空いてるから、という話に乗って引っ越してきた。
小さい子供にとってはマンション住まいよりも一軒家の方が何かと都合がよかろうと思って決めたのだが、カミさんにとっては管理が大変とか何とかで、若干シブっていたことを今になって思い出す。

一軒家は管理が大変。

そう、庭があれば野良猫の糞の始末だって大変だ。私は想像すらしなかったが、カミさんはそれを知っていた。

最初はホームセンターで猫が近づかない薬を仕掛けたりして対処していたが、そのうちだんだん疲れてきて無防備になっていった。

1年目の冬、天井がミシミシと今にも崩れ落ちそうな音を立て始めた際には何事かと思った。まさか野良猫が入り込んでくるなどとは努々思いもしなかった。入り込むとしてもイタチかネズミぐらいのもんだと思っていたから、この「ミシッ、ミシッ!」の後に続いて「ダダダッ!」という雪崩のような足音をはじめて聞いた時は、恐ろしかった。

その翌朝だったか、次の休日の昼間だったかに家を外から調べて見ると、屋根と天井裏の隙間をふさぐ金網にでかい穴が開いているのを見つけ、猫であることを確信し、ゲンナリしたことは忘れもしない。すぐに金網を買ってきて、二重にふさいで、さあこれでもうは入れやしまいと高をくくったが、すぐに破って入ってきた。そんなことを何度か繰り返している間に、こっちはもう戦意を喪失してしまい、それから我が家の屋根裏は、特に冬の季節には猫の天国になっている。

毎年、春になると子猫が産まれ、庭の猫じゃらしで遊ぶ無邪気な姿を見せる。庭に糞をされるのが嫌だから、棲みつかれては困ると激しく思う。だから見つけたら、威嚇して追い払う程度のことはずっとやってきた。そのたび猫たちはササッと逃げていく。その姿を見ている限りは「この家はお前たちの棲む場所ではない」というこちらのメッセージは伝わっているはずであった。少なくとも昨年までは…。

だが、今年生まれた子猫どもは、庭で偶然鉢合わせても逃げようともしない。威嚇したって同じこと。これはどうしたことか。今年の子猫は、何かの病気で野生の本能が欠如しているのだろうか、それとも、こちらの気力が年齢とともに減退していることの証だろうか。

ある日、庭の隅っこで3匹の子猫がぴょんぴょん飛び跳ねる姿を見つけた私は、どうしても我慢がならなかった。最近、家の庭で猫の糞を見つける回数が激増していたこともあった。そうだ、石でも投げつけてやるか。本当にぶつけなくても、近くに飛んでくればさすがに逃げるだろうと、近くにあった小石を転がすように投げた。

ところが、その石は、転がりながらも猫の一匹に命中。驚いた子猫たちはそれでやっと逃げたのだが、本当にぶつかってしまうとなんとも言えない後味の悪さがこちらには残る。何だかとっても残酷なことをしたような気持ちになった私は、それ以来、猫を見かけても、威嚇する気持ちすら起こらない。

やはりペットボトルに水を入れて置いておくとか、猫よけグッズを買ってくるかして、安全に退場していただく方法を考えるべきか。根気強くやっておけばよかった…